「ハドソン川の奇跡」を観ました。イーストウッド、円熟の極み。
2009年1月15日、真冬のニューヨークで、安全第一がモットーのベテラン操縦士サレンバーガー機長(トム・ハンクス)は、いつものように操縦席へ向かう。飛行機は無事に離陸したものの、マンハッタンの上空わずか850メートルという低空地点で急にエンジンが停止してしまう。このまま墜落すれば、乗客はおろか、ニューヨーク市民にも甚大な被害が及ぶ状況で彼が下した決断は、ハドソン川への着水だった。(シネマトゥデイより)
クリント・イーストウッド監督、御年86歳。
毎度毎度、
なぜここまでの名作を世に送り出せるのか。
正直、驚きしかありません。
本当に素晴らしかった。
円熟の極みです。
86年という年月を重ねてきたからこそ出せる味というか、演出、映像のつなぎ方、色合いなど全てに無駄がありません。
いや、86年も生きてないやつが何を偉そうにという話なんですが、本当に素晴らしい映画で、見終わった後、胸がいっぱいになりました。
この事件のことは、知っています。
日本でもたくさん報道されていました。
白ひげの人の良さそうなおじさんが、飛行機を川に不時着させて人々を救った、くらいの記憶はありました。
でも、そこはさすがのイーストウッド。
アンビリバボーの最後のエピソード的な
誰もが泣けるお涙頂戴ものには仕上げません。
ちなみに、アンビリバボーは大好きです。
物語の核になるのは、2つ。
・不時着水の機長の判断は、正しかったのか。
・突然、国の英雄に祭り上げられてしまう恐ろしさ。
トム・ハンクスはほんとに苦悩します。
悩む悩む。
オープニングから、早速、悩んでます。
鳥が突っ込み、エンジンが2つとも停止。
そして、不時着水。
不時着水で助かる確率はかなり低い。
自殺行為にも近い。
空港に戻れたんじゃないの?
調査委員会が追及。
デモマシーンで検証すると、
空港に戻れたという結果が出る。
「人々を救った英雄」と、「人々を危険な目に遭わせた悪人」の間を、行ったり来たりする恐怖。
果たして自分の判断は、正しかったのか?
自分がもしその立場にいたら、確かに夜も眠れないだろうな思います。
ここの人間ドラマだけでも、トム・ハンクス、アーロン・エッカート(素晴らしかった!)他、役者の演技が本当に素晴らしく、相当な見応えがあります。
ここまで読んでいただくと、ちょっと地味な印象を持たれるかもしれませんが、どっこい、映像のつなぎ方、ストーリーの持っていき方が、とてつもなくうまく、全く飽きません。
不時着水のシーンは、視点を変えて、劇中で何回か描かれますが、そのシーンのハラハラ感たるや、すごいです。
手に汗、握ります。
もちろん全員助かることは知っているし、結果はわかっているんだけど、これ大丈夫なの…と、心臓のドキドキが止まりません。
映画館の座席と、飛行機の座席ってなんかリンクするところがあるのか、自分もその飛行機に乗っているような感覚になってくるんですよね。
最後の調査委員会との戦いのところだって、良質な法廷ドラマを見ているみたいで、そう来るか!って感じだったし。
この辺の映像のつなぎ方は、さすがというか、
イーストウッドの円熟の極みですね。
あと、飛行機が不時着水してからも意外と大変だったんだと驚きました。ニュース見てるだけだと、分からないです。
冬の1月。
そんな時期に川に不時着水したら寒すぎる。
ここで助けに向かうのが、船舶関係の人たちや沿岸警備隊の人たち。
この人たちの動きの早さ、「何としても助けなければならない」という真っ直ぐな気持ち。
見ていて、涙が出てきました。
「良いニュースがないからな。特に飛行機関連では」
同時多発テロがどんなものだったのか、日本人の僕にはきっとわかりません。
ですが、彼が英雄になっていく過程を見ていると、アメリカ人にとってこのニュースが、いかに印象的な事件だったのかは伝わってきました。
しかもこれで96分。
脱帽です。
見逃し厳禁の傑作アメリカ映画。
劇場でぜひ。
監督: クリント・イーストウッド
脚本: トッド・コマーニキ
トム・ハンクス
アーロン・エッカート
ローラ・リニー
ジェフ・コーバー
オータム・リーサー
サム・ハンティントン
クリス・バウアー
★4.7点