週刊シネマイモ

その日の映画、その日のうちに。

「万引き家族」を観ました。兎にも角にも安藤サクラがすごすぎる。【80点】

 

f:id:pulp-fiction1330:20180620170440j:plain

 

なんだろうとにかく、見終わって、今、頭がクラクラしています。思考や感情が追いつきません。是枝監督作品だからもちろん覚悟はしていて、休日の、体調がすぐれている今日に見たのですがやっぱりそれでもヘトヘトに。善か悪かでハッキリと測ることのできない登場人物たちの行動や言動が、その都度突き刺さってきて、胸がきゅうううううっと締め付けられています。物語の終盤は、登場人物たちの会話だけで、なぜか涙が止まらなくなります。なんで泣いてるのか分からなくなるんです。もしかしたら登場人物たちもそうなのかも。凛ちゃんがあの家族から引き剥がされて悲しい、、、なんていうそんな安易な涙じゃないんです。胸がひたすらに苦しくなるんです。安藤サクラの取り調べシーンが一番やばかったです。拭っても拭っても溢れ出てくる涙。彼女は「なんでしょうね」と何度も囁く。今後も自分の心にずっと刺さり続けるシーンになると思います。自分の感情のダムが決壊して、涙も出るし心がぐちゃぐちゃになってしまう。そんな映画体験でした。キャストの皆さんの演技は全員文句無しで、リリーさんや樹木さんはもちろん、松岡さんも子役の2人も素晴らしかった。でも、とにもかくにも安藤サクラもうこの人の演技はもはや神の領域でしょ。さっきも書いたけれど、取り調べシーンで涙を流すシーンはもうすごすぎて言葉を失くしました。彼女は一生懸命役を演じているというよりも、そこにいる。まさにそこにその人で立っている。なぜあんなにナチュラルなのか。演じている感じが出ないのか。本当に言葉がありません。素晴らしいです。何が正しくて、何が正しくないのか。それは観客の解釈に委ねられるし、映画で答えは出されません。万引きはいけないことだし、老人の年金を頼りに居候している大人なんて普通ははぁ?って感じだと思います。では、虐待を受けていた少女を救った人は悪なのか?ていうかそもそも万引きって、何でダメなのか?安藤サクラは凛ちゃんを誘拐ではなく「拾ったんです」と言います。「捨てた人がいるから拾った人もいるんじゃないですか」と。捨てた人は追求されずに、なぜ拾った人が追求されてしまうのか。なぜ彼らはこんな生活をしているのか。なぜこんな状況になってしまったのか。誰が拾ったのか。それは、物語の後半で明かされていきます。それまではみんな過去に何かあったのかな、、、とふわっとした状態で見れるので、温かいホームドラマのようにも見えます。でも、家族が逮捕されたあたりから物語のトーンは一変。真っ暗闇の灰色の淀んだ空気に包まれます。温かい家族が何となくの絆で結ばれていたと思っていた。これからもこのまま行くんだと思っていた。でも違った。それは間違いだった。駄菓子屋の店主からお兄ちゃんは言われます。「妹にはやらすんじゃない」と。お兄ちゃんの善悪の定義が初めてここで揺らぎ、その教えが、このふわっとした温かいように見えた家族を崩壊させることになります。彼らは現実世界を真正面から受け止めることなく、ぬるま湯に浸かり続けて、ダラダラと底辺で暮らしていた。甘えていたとも言えるかもしれません。それは間違いないし、それしかできなかったのでしょう。それぞれが依存して暮らしていたとも言えるかもしれません。その家族っぽい依存関係が崩壊した時、彼らは弱い自分をさらけだし、涙し、お兄ちゃんに正直に包み隠さず全てを話すんです。そしてお兄ちゃんはバスに乗り、振り返ることなく(少し見るけど)去っていく。凛ちゃんは元の家族のところに戻り、おそらく再びひどい扱いを受けながら暮らしている。でもその目は冒頭とは違い、どこか力強い。ラスト、彼女の見つめる先が日に照らされていたことに唯一の希望を感じました。また劇伴を担当されていた細野晴臣さんも素晴らしかったです。不思議な音色や和音の使われ方が絶妙で、異様な家族っぽい関係の雰囲気に効果的な味付けがなされていたように思います。とにもかくにもパルムドールにふさわしい、というかパルムドールっぽい重たい余韻が漂った、心も頭も追いつかない今後も心にぐさっと刺さり続けるであろう是枝監督の魂の込もった珠玉の1作です。

 

80点/100点